代表者ブログ〜かむかふ日々

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日本語の「わかりました」は過去形か?

繰り返しになりますが、私は、日本語の口語文法がきちんと整理できていないうちに英語の文法用語がどんどん入って来ることが英語がなかなか身につかない原因の一つになっていると考えています。日本ではまだまだ「訳す」、つまり日本語を念頭に英語に変換したり、反対に英語を一旦日本語に変換してから理解することが普通に行われており、その変換ロジックに文法が用いられるので尚更です。

前回、英語の時制について考えました。時制とはあくまで文法上の決まりであって、英語の動詞の現在形はその名前にも拘わらず現在のことを表さないことについて述べました。そして最後に、”know” や “like” や “understand” などの動詞は、その状態がある過去の時点からずっと今も継続していて、恐らく将来も変わらないという性質を持つため、現在形で表す、ということに触れました。ここでややこしいことが起こります。

英語で自分が今言ったことや状況を相手が理解したかを確認する時は次のように言うでしょう。即ち現在形で、

— Do you understand?
— Yes, I understand.

ところが、このような場合、日本語では何と言うでしょうか?

— わかりましたか?
— わかりました。

国語の時間でなく、英語の授業で「〜した」というのは過去形だと教わりますので、これは過去形だと認識している人が非常に多いです。そこで、今度はこの日本語を英語にする時、次のように訳す人が多いのです。

— Did you understand?
— Yes, I understood.

これは英語としては間違いです。では、日本語の表現は何故過去形なのでしょうか? 実は、過去を表すと思われている助動詞「た」ですが、これは過去ではなく、完了の助動詞なのです。即ち、次の3つの状況を表します。

1. 動作が既に完了したとの判断
2. 動作が既に完了し、現在もその状態が継続しているとの判断
3. 将来の事態について、既定の事実であるかのように仮定して言う場合

そうです。英文法で考えれば、1番目と2番目は「現在完了」になりますし、3番目は「明日雨が降ったら」のような場合ですので、これは “If it rains tomorrow,…” と現在形で表現します。つまり、英語の先生が教えてくれたこととは異なり、英語で現在形を使用する場面に日本語の「た」は使われているのです。

この「た」の正体は、元々は文語文法の助動詞「たり」から来ています。文語文法では、日本語には過去または完了を表す助動詞には次の6つがありました。

  • つ …… 完了を表す
  • ぬ …… 完了を表す
  • り …… 完了・継続を表す
  • たり …… 完了・継続を表す
  • き …… 記憶にあることの判断、回想=単純過去
  • けり …… 過去に対する現在の認識=単純過去

微妙な心の動きを和歌に託してやりとりしていた昔(いにしえ)の人たちは、その微妙な感じをこれら6つの助動詞で使い分けていたわけですが、時代が下っていくにつれて私達が普段使っている口語では「たり」が省略された「た」だけが生き残ったというわけです。上の6つのうち4つが完了で単純に過去を表すのは2つだけであり、そのうち完了の「たり」だけが残ったということは、私たち日本人は過去のことをただ過ぎ去ったものとして過去に追いやるのではなく、その過去のことが今に何某かの影響を与えている、或いは今があるのはその過去の出来事の結果、というのをいつも感じているからなのかもしれません。例えば、「曲がった道」という表現は、その道が曲がるようなことが過去にあったのかもしれませんが、現在も「曲がっている」わけです。「わかりましたか?」は、自分が今説明したことで、相手が「わかるようになった」かを確認しているのであり、「はい、わかりました」は、あなたが説明してくれた時点で理解し、今もそのように理解している、ということを表しているのです。そして、そのような状況では英語では現在形を使う、ということなのです。そこで、最初の話に戻ると、

— わかりましたか?   → Do you understand?
— はい、わかりました。 → Yes, I understand.

ところで、私が仕事をしている現場では週に一度海外拠点と英語で会議を行っているのですが、ある時、その現場で英語の研修を担当しているアメリカ人の先生が、出席者が使っている英語のネイティブ・チェックに来てくれたことがありました。その時、私が “Understood!” という表現を使ったらしく、「Mr. Takuma はジャック・バウアーみたいだ」と指摘されたことがあるのでその話も少ししておきましょう。

そう、アメリカのドラマ「24 -TWENTY FOUR-」では「了解!」というような場面でよく “Understood!” という表現が出て来ます。ほら、やっぱり過去形じゃないか、と言われるでしょうか? でも、ポイントは、この表現、主語がないことが多いということです。”Understood.” 単体で出て来ることが多いのです。先生ご指摘のジャック・バウアーにご登場願うと、例えばシーズン1の第5話「4:00 a.m. – 5:00 a.m.」で警官殺しで捕まった容疑者にジャックが面会を求めるところ。

Policeman: You Bauer from CTU?
Jack: Yeah, that’s right.
Policeman: Look, the cop that he killed, she was my partner, you understand?
Jack: I’m sorry.
Policeman: I heard you went off on him before. I want him to go down for it, which means a clean bust. No more extracurricular activities.
Jack: Understood.
Policeman: All right. But l’ve got the access card. Now, you can go in with me or you don’t go in.
Jack: I’m fine with that.

字幕では、

Policeman: バウアーか?
Jack: そうだ
Policeman: 俺はやつに相棒を殺された
Jack: 気の毒に
Policeman: やつをムショに送りたい 違法捜査は困る 慎重に頼むぞ
Jack: 分かった
Policeman: アクセス・カードは俺が持つ 俺も一緒に—— 立ち会う
Jack: いいとも

さて、この “understood” の主語は何でしょうか? 実は、それが明確に出ているところがシーズン6の第15話「8:00 p.m. – 9:00 p.m.」に出て来ます。ダニエルズ副大統領が中東の国への核攻撃を進めようとしているところに意識が回復したウェイン・パーマー大統領から電話がかかってくるところ。

President Palmer: Noah, it’s Wayne.
Vice President Daniels: Mr President, it is an incredible relief to hear your voice. To be frank, it’s a surprise.
President Palmer: I’ve called off the strike, Noah.
Vice President Daniels: We just received word. Sir, this action is a product of careful deliberation between myself and the Joint Chiefs.
President Palmer: Yeah, well, be that as it may, the decision is mine and mine alone. I’m resuming my duties as commander in chief.
Inform Admiral Smith and the others there’s to be no action without my authorization. Is that understood?
Vice President Daniels: Understood, Mr President.
President Palmer: Good.

そうです。主語は “I” や “you” ではなく、”that”、つまり「私が話したこと、今言ったこと」であり、それが「理解されたか?」という受け身の形なのです。英語ではよく主語の “It’s” が省略されることがありますが、正に「了解!」の意味で使われている “Understood.”  の正体は “It’s understood.” なのであって “I understood.” ではない、ということです。

念の為に、上の部分字幕では、

President Palmer: ノア ウェインだ
Vice President Daniels: 大統領 お声を聞けて何よりです 正直驚きました
President Palmer: 攻撃は中止した
Vice President Daniels: 聞きました 大統領 この攻撃は統合参謀本部と討議の末—— 決定した事柄です
President Palmer: そうかもしれないが 決定は私が下す この私が 私は最高司令官に復帰する 皆に伝えろ 私の許可なく非友好的な措置を—— 取るなと 分かったな?
Vice President Daniels: 承知しました
President Palmer: よろしい

ダメ押しでもう一つ、”I understood” とこの “(It’s) Understood.” が両方出て来るシーンをご参考までに。シーズン5の第17話「11:00 p.m. – 12:00 a.m.」で、ローガン大統領が CTU に送り込んだ国土安全保障省のカレンにジャックの逮捕を命じるところ。

President Logan: Karen, I’m issuing an executive order for the immediate apprehension and arrest of Jack Bauer. I want you to run point on this, and I want you to make this CTU’s top priority.
Karen: Yes, sir. For purposes of the warrant, I’ll need to know what Bauer’s being charged with.
President Logan: His role in the assassination of President David Palmer.
Karen: But I understood that he’d been exonerated of that charge, sir. You, yourself, reinstated his credentials.
President Logan: I know, but I didn’t have all the facts then. Some new evidence has come to light.
Karen: New evidence?
President Logan: Yes. I’m looking at it right now and I will forward it to you at the appropriate time.
Karen: Yes, sir.
President Logan: Karen. Obviously, this is a very sensitive matter and for now I would like you to treat the origin of this warrant as confidential.
Karen: Understood, sir.
President Logan: Good.

President Logan: カレン 大統領命令だ ただちにバウアーを拘束しろ 君が指揮しろ CTU の最優先任務だ
Karen: はい 令状に記載する罪状を 教えて下さい
President Logan: パーマー暗殺への関与だ
Karen: 潔白が証明され 大統領が—— 復職を命じられましたが
President Logan: だがあれから 新たな証拠が出た
Karen: 新たな?
President Logan: そうだ 今この目で見ている しかるべき時に そちらへ送ろう
Karen: はい
President Logan: カレン 非常に繊細な問題だ 令状の出所は当面明かすな 機密扱いだ
Karen: はい
President Logan: よし

ローガン大統領の命令に対し違和感を覚えたカレンは “I understood that…” と言っています。「自分は今までこのように理解していたがそれは間違っていたのか?」というニュアンスですね。もっと言えば、”I do not understand.” 今はどういうことなのか理解できない、ということでしょう。そして2回目の “Understood, sir.” はこれまで見てきたように “It’s understood, sir.” ですね。

このように日本語の「わかりました」につられて “I understood.” というと、「今はわからない」という逆の意味になりかねないことに気をつけたいものです。長くなりましたが、日本語の「〜した」は過去形ではなく完了形であること、英語の “Understood.” の主語は “I” ではなく、 “It’s” であることを覚えておいて下さい。

英語について

英語の現在形は現在を表さない?

前回は、文法用語というのは、ある言語の文法を説明するための特殊な専門用語であって、私達が日常使用している言葉と意味する範囲が異なるという話をしました。中でも英語の時制(tense)は日本人の持つ現実の現在・過去・未来などの時間(time)に関する感覚とことなるところがあり、注意すべきものの一つです。その最たるものが、私達が中学一年で一番最初に習う動詞の「現在形」です。

実は、英語の動詞の現在形は現在、即ち、今起こっていることを説明するためのものではありません。英語で現在形を使用するのは、一般的な、普遍的な事柄のことです。もっとわかりやすく言うと、昨日もそうだったし、今日もそうだし、明日も変わらないもの、例えば太陽が東から昇って西に沈む、といったことです。人について言えば、いつもはこういう生活をしている、朝何時に起きて、何時に朝食して、何時に出かけて、何時に帰宅して、何時に寝る、といったような事柄です。そのような観点から中学校一年生の英語の教科書を見直してみると、その大半が「自己紹介」や他人の紹介に費やされていることがわかります。つまり、私は普段こういうことをしている人です、彼はどういう仕事をしている人です、といった内容です。

英語では、現在起こっていることを表すのには現在進行形で表現します。実際の会話の場面ということを考えた時に、一番多いのは今起こっていることを人に伝えるか、或いは既に起こった過去のことを伝えることではないでしょうか。だからだろうと私は想像するのですが、世界で一番売れていると言われている外国人向けの英文法の本、レイモンド・マーフィーの English Grammar in Use は、一番最初の “Unit 1” が現在進行形の説明から始まります。その次が現在形、次に過去形、という流れで説明しています。そしてその現在形の説明がわかりやすいので少し引用しますと、

Alex is a bus driver,
but now he is in sleep.
He is not driving a bus. (he is asleep)
but
He drives a bus. (he is a bus driver)

「アレックスはバスの運転手で、今は寝ています。今はバスを運転しているわけではありませんが、彼はバスを運転する人です。」ということですね。”He is driving a bus.” と “He drives a bus.” の違いがわかりやすく説明されていると思います。この現在形と現在進行形の対比はよくシステムのバグの報告などにも表れます。つまり、本来は(普通は、一般的には)このように動作することになっているのに、今はこんな風に想定外の動きをしている、といった場合です。例えば、

According to the user manual, when you click “Info” button and the list of files associated with the account appears so you can choose files. After the last update, when we click “Info” button, the PDF file on top of the list is showing up in full screen and we cannot choose other files.(ユーザマニュアルによると、「Info」ボタンを押すとそのアカウントに紐付くファイルの一覧が表示され、これらのファイルを選択できるようになっているはずなのだが、前回のアップデート以来、「Info」ボタンを押すとリストの一番上にあるPDFのファイルが勝手に全画面で開かれてしまい、他のファイルが選択できない。)

英語の現在形はこのように今起こっていることでなく、一般的事実、普遍の真理、もう変わりようがないものについて述べる場合に使われます。だからでしょうか、英語の新聞の見出しでは、過去のことを現在形で表現します。例えば今朝の各紙のトップストーリー(何れも電子版)を見てみますと、

U.S.-China Trade Talks End With Strong Demands, but Few Signs of a Deal — The New York Times
Saudi Arabia Pushes for Oil at $80 a Barrel — The Wallstreet Journal
Giuliani revises his comments on Trump’s reimbursement of payment to porn actress — The Washington Post
Hawaii volcano: Massive quakes rattle island as lava damages homes — USA Today

これら見出しに出て来る動詞 “end”, “pushes”, “revises”, “rattle”, “damages” 何れも現在形ですが、実際には過去の出来事ですね。因みに、見出しで過去形に見えるものは過去分詞、つまり受け身を表していて、Be-動詞が省略されているのです。例えば、上の3つ目の記事に関連で The New York Times の記事にこういうのがありました。

Mr. Giuliani’s damaging statement played out on Fox News, Mr. Trump’s favorite network

この記事の “played” は過去形ではありません。これは過去分詞、つまり、”damaging statement was played” という意味で、フォックス・ニュースでそのような発言が流された、ということですね。

ちょっと長くなりましたが、繰り返しますと、英語では現在、今起こっていることを表すのには現在進行形を用い、現在形は昨日も今日も明日も変わらない事実について述べる時に用いるのです。

ここでもう一度マーフィーの文法書に戻ると、進行形にはできない動詞があることにも注意を促しています。日本語では「知っている」「わかっている」「愛している」など、何れも今のことのように表現しますが、よくよく考えてみれば、これらは今知っているだけでなく、昨日も知っていて明日も恐らく知っている状態は続いているわけであり、わかっているも愛しているも同じでしょう。なので、”know”, “like”, “want”, “realize”, “understand”, “believe”, “remember” などの動詞は進行形ではなく、現在形で表すという説明がなされています。

これらの動詞に関連して、次回は日本語の時制について考えます。

英語について

文法に対する誤解について

前回の投稿から少し空きましたが、ここで少し「文法」について触れておきたいと思います。というのは、文法に関する言葉は日常の会話の中でも出て来ることが間々あるのですが、どうも正しく理解されていないのではないか、と感じるところもあるからです。そもそも中学校一年生で、日本語の文法である国文法もしっかり定着しないうちに英文法の用語がどっと入って来るのできちんと整理できないままに高校生になり、大学生になり、そして社会人になって今に至っているという人は多いのではないでしょうか。

そこで、まず結論から言います。まず一点目、多くの人は「文法用語」を知ってはいますが、「文法」そのものを正確に理解できているかは別の話です。二点目、「文法用語」はある言語の現象を説明するための特殊な専門用語であって、私達が日常使用しているのと同じ表現を使っていたとしても、その概念や意味は日常語とは異なることがある、ということです。

最初の「文法用語」を知っている、という話から始めましょう。実は、この原稿を書くに当たって、先ほど書店で各社の中学校一年生の英語の教科書ガイドと教科書にとらわれない、標準的なワークブックを一通り見て来たところです。教科書そのものは各社いろんな工夫がしてあってそれなりに面白かったですが、ガイドの方は会社によって「三人称単数現在」や「Be-動詞」なる言葉を早速登場させてますし、ワークブックに至っては、各単元の見出しが既に「Be-動詞」「一般動詞」だったりします。これらの言葉を正確に知るには、例えば「三人称単数現在」であれば、「三人称」は「一人称、二人称」に対する概念、「単数」は「複数」に対する概念、「現在」は「過去」や「未来」に対する概念で、これら全体が見えている人にとって意味のある言葉です。言い換えると、これは英語の研究者にとっては意味のある用語ですが、一人称、二人称とは何か、複数も過去も習っていない状態で「三人称単数現在」という用語を導入することは生徒たちを惑わせること以外に何の効果もありません。実際、私が中学生の時に教わった先生はこれを「三単現のs」と言っていましたが、私には「サンタンゲン」というのが何のことかさっぱりわかりませんでした。わかりませんでしたが、言葉を知っているだけでモノを知った気になるのが人間の愚かなところで、参考書や塾で先にこの言葉を知っている子は優越感を感じ、知らない子は劣等感を感じるというあまりよろしくない効果すらあります。この状態で「現在完了形」「関係代名詞」「仮定法」といった恐ろしげな文法用語ばかりが頭に入って来る一方、社会人になってもなかなか英語を普通に話せない、という状況です。実際、今回中学一年生の教科書に一通り目をとおして気づいたのですが、一年生の教科書をちゃんとマスターすれば、日常会話はできるはずなのです。ビジネス英語と言ったって、ビジネス用語が入って来るので難しく感じるだけで、文体としては殆ど中学校一年生で習うものでまかなえます。

次に、「文法用語」はある言語を説明するための特殊な用語である、という点についてです。例えばヨーロッパの言語を学ぼうとすると、すぐに名詞には「性・数・格」があることを学びます。これらは何れも文法上の分類に過ぎないので、一番わかりやすいのは「性」でしょうが、文法上は男性・女性・中性があるのがまず生物学的な性とは異なりますし、生物でないものにまで性で区別するのは、あくまでも言葉の上だけの話です。例えばスペイン語では、「頭(la cabeza)」は女性ですが、「髪(el pelo)」は男性です。「手(la mano)」は女性ですが、「足(el pie)」は男性です。何故なのかはわかりません。あくまでも文法の上でそう決まっている、というだけです。しかも、これは言語によって異なったりします。よく映画や音楽のタイトルにも出て来る「海」については、今例に出したスペイン語(el mar)やイタリア語(il mare)では男性ですが、同じラテン系の言葉であるフランス語(la mer)では女性です。これらのことからも現実の男性女性や雄雌の区別とは全く関係ないことがわかると思います。実際、生物学上の性は英語で “sex” と言いますが、文法上の「性」は “gender” という全く別の言葉です。

同じ事が動詞の「時制」についても言えます。日本語では同じ「時」という文字を使っていますが、英語では現実の時、時間は “time” と言うのに対し、「時制」は “tense” とやはり全く別の言葉です。別の言葉を使うのは現実のものと混乱しないようにという意図であると捉えています。即ち、「時制」が表す現在・過去・未来は、現実の現在・過去・未来とは異なるのだ、ということです。長くなりましたので、これについては稿を改めることと致しましょう。

英語について

「86」って何か知ってるかい?

字幕を見ながら英語で何て言ってるか聴き取ってみよう、という話を続けてますが、字幕は必ずしも英語そのままに付けられているわけではありません。例えば、日本の視聴者がぱっと見てわかるような表現に変えられていることはしばしばあります。よくあるのは商品名を一般的な名称に置き換えるものですね。例えば、アメリカのコメディ「フレンズ(F.R.I.E.N.D.S)」シーズン7の最初のシーン、モニカの部屋でジョーイ、フィービー、レイチェル、チャンドラーがテーブルを囲んで何やら乾杯してます。そこに荷物を抱えたロスが登場。この部分の字幕は、

Ross: メモ見たよ ”モニカんちに シャンパン持参で来い”
Ross: チョコバーも
Joey: これは俺用

問題は「チョコバー」のところ、はっきりとある商品名が聞こえるのです。その英語はこんな風です。

Ross: Hey, what’s going on? I found a note on my door, “Come to Monica’s quick, bring champagne…
Ross: and a Three Musketeers bar.”
Joey: Yeah I’ll take that.

“Three Musketeers bar” ですって? “Three Musketeers” と言えば、あのフランスの「三銃士」ですよ。「三銃士バー」なんてお菓子があるのか!? ともうドラマを見ながらも気になります。スマホを片手に検索すると、Wikipedia のこちらのページにありましたよ。今は「3 Musketeers」と書かれた包みに一本のチョコバーが入ってるだけですが、そもそも「三銃士」の名の由来はチョコレート、ストロベリー、バニラの3つの味の3つのバーが入ってたんですって。確かにこの3つは三強かもですね。こんな風に今のは何だ?って時はすぐに確認するようにしてますが、まぁ「フレンズ」にはこの類の商品名はバンバン出て来て、一方字幕は一般的な名称になっているので、その違いに気づくようになるとおもしろいですよ。

同じように気になったのが、これもアメリカの刑事ドラマ「メンタリスト(The Mentalist)」のシーズン7第8話「白煙の向こう(The Whites of His Eyes)」の冒頭のシーン。主人公のパトリック・ジェーンとテレサ・リスボンがテーブルサッカーで遊んでるところへお店の人がそろそろお会計を、と催促しに来る。ゲームに負けたジェーンは支払いながら、テレビのニュースが殺人事件を伝えているのに見入る。そこへゲームに勝って嬉しいテレサがやって来て……。字幕はこんな感じです。

Teresa:(ジェーンに)手羽先を
Patrick:(目はニュースに向けたまま)テイクアウトしよう
Patrick:(店員に)手羽先を包んで
Teresa:(電話に出る)ボス
Teresa: 急行します
Teresa:(ジェーンに)行こう
Patrick:(店員に)キャンセルで
Patrick: ごめんね

ここで聞こえる英語はこうです。

Teresa: Could we get some chicken wings?
Patrick: Sure, we…may we have to get them to go.
Patrick: Will you get some chicken wings to go please?
Barmaid: Yeah.
Teresa: Hey, boss!
Teresa: I…we’ll be right there.
Teresa: We need to go, now.
Patrick: Eighty-six the wings.
Barmaid: Sure.
Patrick: Thank you. Sorry.

日本語の「テイクアウト」は、英語では “to go” と言います。ジェーンはテレビのニュースが気になってて、これは呼び出されるぞ、と予感してるから「テイクアウトにしないといけないかもね」と言うのですが、問題はそのあと。案の定ボスから電話がかかってきて、今すぐに行かないといけなくなったのでテイクアウトをキャンセルするのですが、その「キャンセル」のところ、英語は “Eighty-six the wings.” と言ってます。”eighty-six” は勿論「86」という数字ですが、それを動詞に使ってますよね?

早速 American Heritage Dictionary of the English Language 5th Edition で調べてみると、元々は、「バーやレストランで、特に不快なお客さんに給仕しないこと(To refuse to serve (an unwelcome customer) at a bar or restaurant)」という意味だったようですが、そこから更に、「投げ捨てる、追い出す、破棄する(To throw out; eject. To throw away; discard)」と言う意味に広がったようです。そして何故86がそのような意味になるかについては、次のようにコメントされています。

Probably from waiters’ and bartenders’ slang of the 1920s and 1930s, originally used to indicate that an item on the menu was not available, perhaps rhyming slang for nix.
(1920年代、1930年代のウェイターやバーテンダーのスラングから来ていると思われ、元々はメニューの品が売り切れていることを伝えるのに使われた。もしかすると「ゼロ」を意味する “nix” と韻を踏むスラングなのかもしれない。)

なるほどね。こういう数字を使った表現というのは他にもあって、

20/20 (twenty-twenty): 視力が正常、よく見える
24/7 (twenty-four seven): 年中無休
10-4 (ten-four): 了解
at sixes and sevens: 混乱して

“24/7” は皆さんもご存じのことでしょう。他のものが何故そういう意味なのかはご興味があったら調べてみて下さい。単なる数字と思って聞き流してはいけません。その数字が何か別の意味を持つことがあるんです。

英語について

ドクター・フーとスコットランド訛りの話

前回の投稿の終わりの方で外国系の訛りについて触れたけれども、しかし、外国人だけが訛っているわけではないところがまたおもしろくて、アメリカだったらテキサス訛りだとか、イギリスだったらスコットランド訛りとか、そもそも生粋のアメリカ人、イギリス人であっても訛ってて、しかも慣れてないとホント聴き取れなかったりします。いえ、これは日本人だから、ということではなくて、私が大学の時に英文学と翻訳を教わった教授が、学生時代にイギリスに留学していて、スコットランドに遊びに行った時に、あるパブでイングランドから来たという人と一緒に飲んでいろいろ話している時に、どうも地元の人らしい人が入って来て、なにやらわけのわからない言葉でしゃべってそのうちまた出て行ったというのです。その教授は全く聴き取れなかったのに、一緒にいたイングランドの人は笑っていたので、あの人は何言ってたんですか? と聞いたら、いや、俺もよくわからないんだよ、と答えたのだとか。イギリス人ですら聴き取れないとは!

私自身はスコットランドに行ったことがないので教授の話がどのくらい盛ってるかはわからないのですが、その行ったことのない私がスコットランド訛りというのを意識したのは、2005年から BBC で新シリーズが始まった「ドクター・フー(Doctor Who)」を見てる時のことです。この「ドクター・フー」、BBC と言ってもロンドンではなく、ウェールズで製作されていることが関係してるのか、主人公にスコットランド人が多いです。まずは新シリーズで最初のドクター、9代目ドクターのクリストファー・エクルストン、続く10代目ドクターのデイヴィッド・テナント、11代目のマット・スミスはイングランド人でしたが、12代目のピーター・カパルディもスコットランド人でした。そしてコンパニオンでは、ローズのビリー・パイパーとクララのジェナ・ルイーズ・コールマンはイングランド人ですが、エイミーのカレン・ギランもまたスコットランド人でしたね。

新シリーズシーズン1の第1話「マネキン・ウォーズ(Rose)」の中で、初めてドクターに出会ったローズはいろんなことに戸惑います。そしてこの台詞になります。

Rose: If you’re an alien, how come you sound you’re from the north?
Doctor: Lots of planets have a north.

Hulu での字幕は、「なぜ北部の訛りが?」「北から来たんだ」となってて、わかったようなわからないような感じですが、ちゃんと訳すと、

ローズ:もし自分がエイリアンだって言うんなら、何で北から来たみたいな喋り方するのよ?
ドクター:大抵の惑星には北があるもんさ。

他の惑星でも北の方の人はスコットランド訛りで喋るというのでしょうか?(笑)

しかし、実際は、私はそれほど9代目や10代目のドクターの英語が聞きづらいとは思いませんでした。参ったのはシーズン5でマット・スミスの11代目ドクターと出会って旅をするエイミーです。彼女の英語、正直最初は全く聴き取れませんでした。ドクターのすること一つ一つに驚いて「ウォー、ウォー」と叫ぶので、何かと思ってたら、実はこれ、誰でも知ってる単語 “What?” だったのです。(笑)

同じイギリス人でも聞きづらい時があるんですもの、僕ら日本人が多少聴き取れなくっても落ち込まないことです。たくさん聞くチャンスを増やして慣れていくしかないのです。

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