英語について

「86」って何か知ってるかい?

字幕を見ながら英語で何て言ってるか聴き取ってみよう、という話を続けてますが、字幕は必ずしも英語そのままに付けられているわけではありません。例えば、日本の視聴者がぱっと見てわかるような表現に変えられていることはしばしばあります。よくあるのは商品名を一般的な名称に置き換えるものですね。例えば、アメリカのコメディ「フレンズ(F.R.I.E.N.D.S)」シーズン7の最初のシーン、モニカの部屋でジョーイ、フィービー、レイチェル、チャンドラーがテーブルを囲んで何やら乾杯してます。そこに荷物を抱えたロスが登場。この部分の字幕は、

Ross: メモ見たよ ”モニカんちに シャンパン持参で来い”
Ross: チョコバーも
Joey: これは俺用

問題は「チョコバー」のところ、はっきりとある商品名が聞こえるのです。その英語はこんな風です。

Ross: Hey, what’s going on? I found a note on my door, “Come to Monica’s quick, bring champagne…
Ross: and a Three Musketeers bar.”
Joey: Yeah I’ll take that.

“Three Musketeers bar” ですって? “Three Musketeers” と言えば、あのフランスの「三銃士」ですよ。「三銃士バー」なんてお菓子があるのか!? ともうドラマを見ながらも気になります。スマホを片手に検索すると、Wikipedia のこちらのページにありましたよ。今は「3 Musketeers」と書かれた包みに一本のチョコバーが入ってるだけですが、そもそも「三銃士」の名の由来はチョコレート、ストロベリー、バニラの3つの味の3つのバーが入ってたんですって。確かにこの3つは三強かもですね。こんな風に今のは何だ?って時はすぐに確認するようにしてますが、まぁ「フレンズ」にはこの類の商品名はバンバン出て来て、一方字幕は一般的な名称になっているので、その違いに気づくようになるとおもしろいですよ。

同じように気になったのが、これもアメリカの刑事ドラマ「メンタリスト(The Mentalist)」のシーズン7第8話「白煙の向こう(The Whites of His Eyes)」の冒頭のシーン。主人公のパトリック・ジェーンとテレサ・リスボンがテーブルサッカーで遊んでるところへお店の人がそろそろお会計を、と催促しに来る。ゲームに負けたジェーンは支払いながら、テレビのニュースが殺人事件を伝えているのに見入る。そこへゲームに勝って嬉しいテレサがやって来て……。字幕はこんな感じです。

Teresa:(ジェーンに)手羽先を
Patrick:(目はニュースに向けたまま)テイクアウトしよう
Patrick:(店員に)手羽先を包んで
Teresa:(電話に出る)ボス
Teresa: 急行します
Teresa:(ジェーンに)行こう
Patrick:(店員に)キャンセルで
Patrick: ごめんね

ここで聞こえる英語はこうです。

Teresa: Could we get some chicken wings?
Patrick: Sure, we…may we have to get them to go.
Patrick: Will you get some chicken wings to go please?
Barmaid: Yeah.
Teresa: Hey, boss!
Teresa: I…we’ll be right there.
Teresa: We need to go, now.
Patrick: Eighty-six the wings.
Barmaid: Sure.
Patrick: Thank you. Sorry.

日本語の「テイクアウト」は、英語では “to go” と言います。ジェーンはテレビのニュースが気になってて、これは呼び出されるぞ、と予感してるから「テイクアウトにしないといけないかもね」と言うのですが、問題はそのあと。案の定ボスから電話がかかってきて、今すぐに行かないといけなくなったのでテイクアウトをキャンセルするのですが、その「キャンセル」のところ、英語は “Eighty-six the wings.” と言ってます。”eighty-six” は勿論「86」という数字ですが、それを動詞に使ってますよね?

早速 American Heritage Dictionary of the English Language 5th Edition で調べてみると、元々は、「バーやレストランで、特に不快なお客さんに給仕しないこと(To refuse to serve (an unwelcome customer) at a bar or restaurant)」という意味だったようですが、そこから更に、「投げ捨てる、追い出す、破棄する(To throw out; eject. To throw away; discard)」と言う意味に広がったようです。そして何故86がそのような意味になるかについては、次のようにコメントされています。

Probably from waiters’ and bartenders’ slang of the 1920s and 1930s, originally used to indicate that an item on the menu was not available, perhaps rhyming slang for nix.
(1920年代、1930年代のウェイターやバーテンダーのスラングから来ていると思われ、元々はメニューの品が売り切れていることを伝えるのに使われた。もしかすると「ゼロ」を意味する “nix” と韻を踏むスラングなのかもしれない。)

なるほどね。こういう数字を使った表現というのは他にもあって、

20/20 (twenty-twenty): 視力が正常、よく見える
24/7 (twenty-four seven): 年中無休
10-4 (ten-four): 了解
at sixes and sevens: 混乱して

“24/7” は皆さんもご存じのことでしょう。他のものが何故そういう意味なのかはご興味があったら調べてみて下さい。単なる数字と思って聞き流してはいけません。その数字が何か別の意味を持つことがあるんです。

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