英語について

文法に対する誤解について

前回の投稿から少し空きましたが、ここで少し「文法」について触れておきたいと思います。というのは、文法に関する言葉は日常の会話の中でも出て来ることが間々あるのですが、どうも正しく理解されていないのではないか、と感じるところもあるからです。そもそも中学校一年生で、日本語の文法である国文法もしっかり定着しないうちに英文法の用語がどっと入って来るのできちんと整理できないままに高校生になり、大学生になり、そして社会人になって今に至っているという人は多いのではないでしょうか。

そこで、まず結論から言います。まず一点目、多くの人は「文法用語」を知ってはいますが、「文法」そのものを正確に理解できているかは別の話です。二点目、「文法用語」はある言語の現象を説明するための特殊な専門用語であって、私達が日常使用しているのと同じ表現を使っていたとしても、その概念や意味は日常語とは異なることがある、ということです。

最初の「文法用語」を知っている、という話から始めましょう。実は、この原稿を書くに当たって、先ほど書店で各社の中学校一年生の英語の教科書ガイドと教科書にとらわれない、標準的なワークブックを一通り見て来たところです。教科書そのものは各社いろんな工夫がしてあってそれなりに面白かったですが、ガイドの方は会社によって「三人称単数現在」や「Be-動詞」なる言葉を早速登場させてますし、ワークブックに至っては、各単元の見出しが既に「Be-動詞」「一般動詞」だったりします。これらの言葉を正確に知るには、例えば「三人称単数現在」であれば、「三人称」は「一人称、二人称」に対する概念、「単数」は「複数」に対する概念、「現在」は「過去」や「未来」に対する概念で、これら全体が見えている人にとって意味のある言葉です。言い換えると、これは英語の研究者にとっては意味のある用語ですが、一人称、二人称とは何か、複数も過去も習っていない状態で「三人称単数現在」という用語を導入することは生徒たちを惑わせること以外に何の効果もありません。実際、私が中学生の時に教わった先生はこれを「三単現のs」と言っていましたが、私には「サンタンゲン」というのが何のことかさっぱりわかりませんでした。わかりませんでしたが、言葉を知っているだけでモノを知った気になるのが人間の愚かなところで、参考書や塾で先にこの言葉を知っている子は優越感を感じ、知らない子は劣等感を感じるというあまりよろしくない効果すらあります。この状態で「現在完了形」「関係代名詞」「仮定法」といった恐ろしげな文法用語ばかりが頭に入って来る一方、社会人になってもなかなか英語を普通に話せない、という状況です。実際、今回中学一年生の教科書に一通り目をとおして気づいたのですが、一年生の教科書をちゃんとマスターすれば、日常会話はできるはずなのです。ビジネス英語と言ったって、ビジネス用語が入って来るので難しく感じるだけで、文体としては殆ど中学校一年生で習うものでまかなえます。

次に、「文法用語」はある言語を説明するための特殊な用語である、という点についてです。例えばヨーロッパの言語を学ぼうとすると、すぐに名詞には「性・数・格」があることを学びます。これらは何れも文法上の分類に過ぎないので、一番わかりやすいのは「性」でしょうが、文法上は男性・女性・中性があるのがまず生物学的な性とは異なりますし、生物でないものにまで性で区別するのは、あくまでも言葉の上だけの話です。例えばスペイン語では、「頭(la cabeza)」は女性ですが、「髪(el pelo)」は男性です。「手(la mano)」は女性ですが、「足(el pie)」は男性です。何故なのかはわかりません。あくまでも文法の上でそう決まっている、というだけです。しかも、これは言語によって異なったりします。よく映画や音楽のタイトルにも出て来る「海」については、今例に出したスペイン語(el mar)やイタリア語(il mare)では男性ですが、同じラテン系の言葉であるフランス語(la mer)では女性です。これらのことからも現実の男性女性や雄雌の区別とは全く関係ないことがわかると思います。実際、生物学上の性は英語で “sex” と言いますが、文法上の「性」は “gender” という全く別の言葉です。

同じ事が動詞の「時制」についても言えます。日本語では同じ「時」という文字を使っていますが、英語では現実の時、時間は “time” と言うのに対し、「時制」は “tense” とやはり全く別の言葉です。別の言葉を使うのは現実のものと混乱しないようにという意図であると捉えています。即ち、「時制」が表す現在・過去・未来は、現実の現在・過去・未来とは異なるのだ、ということです。長くなりましたので、これについては稿を改めることと致しましょう。

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